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大分地方裁判所 昭和46年(行ウ)1号 判決 1973年3月31日

大分県日田市大字友田一、〇〇〇番地の一

原告

株式会社日田中央木材市場

右代表者代表取締役

諫本清人

右訴訟代理人弁護士

加来義正

右同

渕辰吉

大分県日田市田島二丁目七番一号

被告

日田税務署長

右指定代理人

麻田正勝

右同

丸山稔

右同

下司考男

右同

岡野陽一

右同

村上久夫

右同

村上悦雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求める裁判

一、 原告

1. 被告が昭和四四年六月二七日付をもつて原告に対してなした原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度分法人税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分のうち、熊本国税不服審判所長が昭和四五年一〇月一七日付をもつてなした裁決によつて取消した部分を除きその余を取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、 被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、 当事者の主張

一、 請求原因

(一)  原告は木材市場を営む株式会社であるが、昭和四三年五月三一日被告に対し、昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の法人税の確定申告として所得金額を金九四八万四、〇七八円、法人税額を金二七七万円と申告したところ、被告は昭和四四年六月二七日付で右年度の所得金額を金二、五八七万三、四八三円、法人税額を金八四八万三、七〇〇円とする更正処分および過少申告加算税二八万五、六〇〇円の賦課決定処分(以下、本件更正処分等という)を行い、その旨原告に通知した。

(二)  右本件更正処分等の通知書には、更正の理由として、

1. 土地譲渡益もれ 金一、六三〇万六、〇〇〇円((賞与)、昭和四二年五月二三日、諫本清人外四名に譲渡した土地について低廉譲渡と認め、その差額に相当する金額を利益加算し、譲受者のそれぞれに対する賞与(均等)と認定する。

2. 貸倒損失否認 金八万三、四〇五円(立替金)、期末振替計上の森山鹿男に対する貸倒損失不当。

と記載されていた。

(三)  そこで原告は、諫本清人外四名に売渡した日田市大字十二町字下庄手七七九番雑種地外七筆(以下本件土地という)の譲渡価額は坪当り金二万六、〇〇〇円坪数一、二一九坪合計三、一六九万四、〇〇〇円であり被告主張のように低廉価額ではないので、昭和四四年七月二六日、本件更正処分等のうち(1)について異議申立をしたが、被告は同年一〇月八日、異議申立は理由がないとしてこれを棄却し、原告にその旨通知した。

(四)  更に原告はこれを不服としてて熊本国税局長に審査請求をしたところ、熊本国税不服審判所長は、昭和四五年一〇月一七日、本件土地の適正価額を坪当り金三万五、〇〇〇円実測面積一、一九八・五坪合計金四、一九四万七、五〇〇円と評価し、前記譲渡価額三、一六九万四、〇〇〇円との差額一、〇二五万三、五〇〇円を諫本清人外四名の原告会社取締役に対する経済的利益の供与額と認定するのが相当であるとして、本件更正処分等の一部を取消す裁決をなし、原告は昭和四五年一一月四日右裁決があつたことを知つた。

(五)  ところで、本件土地の譲渡価額は、当時原告が土地の状況、近隣地の売買実例、その他諸事情を斟酌して坪当り金二万六、〇〇〇円と評価したもので、その価額は不動産鑑定士によるも低廉譲渡とは認められない。しかるところ、被告は本件土地の価額を、坪当り金四万円、坪数一、二〇〇坪、合計四、八〇〇万円と評価しているので、原告の譲渡価額三、一六九万四、〇〇〇円を超える部分については本件土地の価額を過大に認定した違法があるにもかかわらず、熊本国税不服審判所長はこれを看過し、前記のとおり本件更正処分等の一部を取消したにすぎず、よつて取消されなかつたその余の部分の取消しを求める。

二、 請求原因に対する認否

(一)  請求原因第(一)項、同第(二)項、同第(四)項はいずれも認める。

(二)  同第(三)項のうち、本件土地の売買価額が低廉価額ではないとの点は否認するが、その余の事実は認める。

(三)  同第(五)項のうち、本件土地の評価を金四、八〇〇万円としたことは認めるがその余は否認する。

三、 抗弁

(一)  原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度における法人税の申告額、被告のなした更正決定処分等、熊本国税不服審判所長のなした裁決額は別紙(一)記帳のとおりである。

(二)  貸倒損失否認について

原告の日田市清水町森山鹿男に対する貸倒損失の計上額八万三、四〇五円については、右森山がその後も製材、素材業を営み、かつ原告が右森山に対し実質的な債権放棄を行つていないので、被告はこれを否認した。

(三)  土地譲渡益金について

1. 原告はかねて所有していた本件土地を、昭和四二年五月二三日、いずれも原告会社の株主かつ取締役である諫本清人、十時新吉、坂本均、高倉実、本一秀五名共有の土地と交換したが、その際本件土地を坪当り二万六、〇〇〇円、坪数一、二一九坪合計三、一六九万四、〇〇〇円とし、右五名共有地を坪当り一万六、〇〇〇円、合計七、二三四万九、六〇〇円とし、その差額四、〇三五万五、六〇〇円を原告は右五名に支払つた。

2. 右本件土地の譲渡価額は時価に比して著しく低廉であつたので、適正時価と右譲渡価額との差額は、法人税法第二二条第二項に基き、土地譲渡益もれとして課税の対象となる。

3. 本件土地の適正価額について

土地の評価にあたつては、客観的に適正な評価が行われるべきところ、本件土地の近傍の売買実例を基準とし、そのうえ地元精通者の意見をも斟酌して、本件土地を坪当り金三万五、〇〇〇円、実測面積一、一九八・五坪合計金四、一九四万七、五〇〇円と評価したものである。

(1) 売買実例による評価

(イ) 本件土地の東に隣接する原告所有にかかる日田市大字十二町字下庄手七七三番の四外七筆の土地(別表(二)、(三)のCの土地)一、二三六、三九坪を原告が昭和四二年二月一〇日、日本電信電話公社に坪当り金四万七、〇九一円合計金五、八二二万二、八七六円で売却している。

(ロ) 本件土地の近傍にある日田市大字十二町字浄明寺四の一外一筆の土地二〇八坪(別表(二)のDの土地)を訴外豊田孝一が昭和四二年三月二九日、訴外株式会社新和に坪当り金五万円、合計金一、〇四〇万円で売却している。

(2) 本件土地の適正価額の算出方法について

(イ) 前記(1)、(イ)、(ロ)の売買実例の平均一坪当りの価額は金四万八、五四五円であるが、前記(1)、(イ)の事例が本件土地の隣接地であり、立地条件、売買日時等がもつとも類似しているので、これを基準地として、次のとおり本件土地の評価をなした。

(ロ) 右基準地の価額は、売買条件による修正、形状がほぼ正方形なので画地条件による修正、本件土地の売買の話合いが基準地の売却直後から開始されたので時点の修正等のいずれもその修正の必要等が認められず、従つて基準地の価額は正常の売買価額である。

(ハ) 本件土地と基準地の両者を比較すると、別表(二)(三)のとおり、基準地は正面道路に面する部分が多く、直ちに基準地の価額を本件土地に適用できないが、本件土地の面側に接する他人所有の土地(別表(二)、(三)のB地、以下B地という)とを併せた土地についての全体的な評価をし、ついでB地を評価して、その評価額を全体的評価額から控除して本件土地のみの評価額を算出し、更に本件土地が不整形地であることからこれを斟酌して評価すれば次のとおりである。

<1> 基準地Cの売買価額

金五、八二二万二、八七六円

基準地の実測面積 一、二三六・三九坪

基準地の奥行逓減率(奥行六七・五メートル)

〇・七二

(奥行逓減率とは、道路面からの奥行が長い程その土地の価額は減少するので、国税庁において、土地価額の算定に当り、道路面からの奥行の長さに応じて価額が逓減する率を定めたもの)

右の実数に基き算出された基準地の道路面(奥行逓減率が一・〇の部分)の一坪当りの価額は金六万五、四〇四円である。

<2> 本件土地とB地の総面積 一、三三九・二坪

奥行逓減率(奥行七五メートル)〇・六七

右の実数に基き算出された全体的評価額は金五、八六八万四、六五四円である。

<3> B地の実測面積一四〇・七坪

B地の奥行逓減率(奥行一四メートル)一・〇

右の実数に基き算出されるB地の評価額は金九二〇万二、三四二円である。

<4> よつて、本件土地の評価額は、<2>によつて求められた全体の評価額から<3>によつて求められたB地の評価額を差し引いた金額四、九四八万二、三一二円となり、本件土地の一坪当りの価額は金四万一、二八六円である。なお、本件土地は別紙(二)、(三)記載のとおり不整形地であるので、これを斟酌してなお一五パーセントを控除した額一坪当り金三万五、〇九四円が適正価額である。よつて、本件土地の適正価額を金三万五、〇〇〇円としたものである。

(3) 本件土地譲渡後に行われた近傍の土地売買実例として次のものがあり、これによつても本件土地の価額を金三万五、〇〇〇円としたのは相当である。

(イ) 日田市大字十二町字下庄手七九二の二の土地二六八・八坪(別紙(二)のEの土地)を訴外梶原茂外一名が、昭和四二年七月一九日原告代表者諫本清人外二名に金一、九九八万円、一坪当り金七万四、三二二円で売却した。

(ロ) 日田市大字十二町字下庄手七八九の一の土地二三六・一六坪(別紙(二)のFの土地)を訴外倉内孝雄が、昭和四二年八月三〇日、訴外合資会社丸伊呉服店に金一、三四七万六、〇〇〇円、一坪当り金五万七、〇六〇円で売却した。

(ハ) 日田市大字十二町字下庄手七九九の二および同所七九二の二のうち四〇三・一一坪の土地(別紙(二)のGの土地)を原告代表者諫本清人外二名が、昭和四四年二月二七日、金四、三一七万〇、一六〇円、一坪当り金一〇万七、〇九二円で、同所七九九の三のうち三〇一・〇九坪の土地(別紙(二)のHの土地)を、原告会社取締役十時新吉が金三、〇二七万七、九〇〇円、一坪当り金一〇万〇、五六〇円で、それぞれ郵政省に売却し、これを本件土地の売買時昭和四二年五月二三日の時点に修正すると、一坪当りの価額は金八万〇、一五八円および金七万五、二六九円である。

(4) 日田市役所の昭和四二年五月当時の固定資産税評価額は、本件土地が一坪当り金二万〇、二九九円、前記基準地の土地が二万〇、七九七円、前記D地が金八、〇〇〇円である。

ところで、固定資産税評価額は、一般的に時価に比し低く、本件土地を含めて右土地の場合も同様である。基準地の場合、固定資産税評価額に対する売買価額の割合は二二五パーセント、D地の場合六二七パーセントで、本件土地がもつとも低い基準地と同様であるとしても金四万五、六七二円となり、前記3.(2)で主張した一坪当り金三万五、〇〇〇円との評価は過大にすぎることはない。

(5) 昭和四二年五月二三日当時本件土地の一坪当りの価額について、日田市在住の精通者の意見を徴した結果、次のとおりであり、これによつても本件土地一坪当りの価額は金三万五、〇〇〇円が相当である。

(イ) 金融機間

<1> 西日本相互銀行日田支店 金五万三、八〇〇円

<2> 豊和相互銀行日田支店 金四万九、七五〇円

(ロ) 個人

<1> 日田市役所税務課長補佐 山下幟金三万五、〇〇〇円

<2> 不動産仲介業 井上要 金三万五、〇〇〇円

四、 抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)、同第(二)、同第(三)の1.は認める。

(二)  同第(三)の2.のうち、本件土地の譲渡価額が時価に比して著しく低廉であつたとの点は否認する。その余は争う。

(三)  同第(三)の3.の冒頭事実は否認する。

(四)  同第(三)の3.の(1)の(イ)、(ロ)はすべて認める。但し、(イ)の土地は後記のごとく本件土地の基準地とはなり得ないし、(ロ)の土地は国道に接する部分に存在し、本件土地とその形状が大いに異なる。

(五)  同第(三)の3.の(2)はすべて否認する。

(六)  同第(三)の3.の(3)の(イ)、(ロ)、(ハ)の各事実はすべて認める。但し、訴外諫本清人は、かねてより七九九の二、七九九の三の土地を所有しており、これが間口わずか五間にすぎなかつたので、七九二の二と七九二の六とあわせて買受けた。また、訴外諫本は七九九の三を昭和三七年二月一日一坪金一万〇、六一四円で、七九九の二を昭和三七年一〇月二〇日一坪金一万三、五〇〇円で買受け、これを前記七九二の六とともに昭和四四年二月二七日日田市開発公社に一坪当り金一〇万七、〇九三円で郵便局用地として売却したもので、これらは本件土地の価額の基準とはなり得ない。

(七)  同第(三)の3.の(4)のうち、評価額は認めるもその余は否認する。評価額は土地価額を定める基準とはなり得ない。

(八)  同第(三)の3.の(5)は不知。

五、 原告の主張

(一)  本件土地は、その東側に隣接する電々公社所有地ならびに本件土地と道路を隔てて接する郵政省所有地とを併せて約三、〇〇〇坪にわたつて、原告が従来木材市場用地として使用していたものである。しかるに、昭和四〇年頃より日田市に電話増設の緊急なる必要が明らかとなり、他に適地がなかつたので、日田市その他の関係方面の斡施によつて、原告は、現在電々公社所有となつている約一、〇〇〇余坪の土地を売却することにしたものであり、そのため、本件土地を売却することによつて他に木材市場用地を求める以外に方法がなくなつたので、本件土地を処分売却したのである。

(二)  原告は、本件土地の売却するに当つて価額の適正を期するため、原告会社役員において、売却価額決定のための入札を行い、それによつて一坪当り二万六、〇〇〇円の単価を決定し、右売却決定に基き本件土地買受希望者の諫本清人外四名に売却処分をした。

(三)  右価額が適正であることは、不動産鑑定士長嶋敏行が昭和四五年四月一三日行つた不動産鑑定評価によつても認められる。

(四)  被告は、本件土地の算定基準地として、電々公社所有地を採用しているが、(イ)、右土地は電話局設置のための緊急事情により市当局等の斡施により、止むなく売渡した土地であるので、当時としては時価より幾分高値であることは免れ得ない。(ロ)、電々公社の土地は駅前に至る県道に面した正方形に近い土地であるのに反し、本件土地は右県道に接する部分は約九間にすぎない不整形の土地である。以上のような本件不整形地と正方形に近い電々公社所有地と比較することは、実際上の取引と合致しない。

(五)  本件土地の如き道路部分に接すること少なく、かつ不整形地として類似する土地は、訴外株式会社新和所有の日田市大字十二町下庄手二ノ四、二ノ六、三ノ一、四ノ三、五、一ノ一の土地を基準とすべきである。

右土地は、本件土地の約五〇間南側に位置して国道一〇号線に約一二間接している不整形地であり、訴外株式会社新和は、右土地を昭和四二年二月一八日に、一坪当り単価二万八、三一九円にて購入しており、これは原告の売価と殆んど同じである。

六、 原告主張に対する認否

(一)  原告主張の第(一)のうち、他に適地がなかつたとの点は否認するが、その余は認める。

(二)  同第(二)のうち、一坪当り二万六、〇〇〇円と決定したことは認めるがその余は不知。

(三)  同第(三)は否認する。

(四)  同第(四)のうち、電々公社の土地の形状については認めるも、その余は否認する。

(五)  同第(五)のうち、訴外株式会社新和所有の土地の形状、位置関係については認めるもその余は否認する。右土地は、売主の井上静夫が多額の負債を有し、返済に窮して処分したものであること、同地はもと自動車練習場として使用されていたもので道路間よりも低地にあること、立地条件として本件土地は市の中心街に直結した道路に面しているのに、右土地は右中心街に直結した道路に面していないこと等の特殊事情が存在するが、その評価は妥当ではない。

第三、 証拠

一、 原告

書証として、甲第一、第二号証、第三号証の一ないし六、第四ないし第九号証を提出し、証人長嶋敏行の証言、原告会社代表者諫本清人本人尋問の結果を採用し、乙号各証の成立はすべて認める。

二、 被告

書証として、乙第一ないし第一三号証、第一四号証の一および二、第一五号証を提出し、証人久保田稔雄、同小雲幸男の各証言を採用し、甲第二号証、番三号証の一ないし六、第六号証、第七号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、 原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度における法人税の申告額、被告のした更正処分等、熊本国税不服審判所長のなした裁決額等が別紙(一)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二、 原告の申告した貸倒損失金八万三、四〇五円については、森山鹿男がその後も製材業を営み、かつ、原告が右森山に対し実質的な債権放棄を行つていないことは争いがなく、よつて、右金八万三、四〇五円は貸倒損失金として計上されるべきものでない。

三、 原告が所有していた本件土地を、昭和四二年五月二三日、いずれも原告会社の株主かつ取締役である諫本清人、十時新吉、坂本均、高倉実、諫本一秀ら五名共有の土地と交換した際、本件土地の価額を一坪金二万六、〇〇〇円合計三、一六九万四、〇〇〇円とし、右共有地の価額を一坪一万六、〇〇〇円合計金七、二三四万九、六〇〇円として、その差額金四、〇三五万五、六〇〇円が原告会社から右五名の取締役に支払われたことは当事者間に争いがない。

ところで、本件土地を一坪金二万六、〇〇〇円と評価した額が適正であるか否か、もし右評価額が適正価額よりも低額であつたのであれば、その差額分については、原告会社が取締役である諫本らに対しなした無償による資産の譲渡として、前記事業年度における原告会社の所得の金額の計算上益金の額に算入すべき金額となることは、法人税法第二二条第二項により明らかである。よつて、本件土地の適正価額について判断する。

四、 思うに、土地の適正価額は、近隣の土地の取引事例中適正価額によつたと認められるものがあれば、それを基準地として選定し、この価額をもとにして当該対象土地の位置形状等の特殊性を勘案して合理的な修正を行つたうえ一応の価額を算出し、かくして算出しえた価額を、その他近隣土地の取引事例と比較し、あるいは識者の意見を徴するなどして、さらにその算出額の適否を確かめる。以上の方法によつて決定するのが相当である。これを本件についてみるに、まず本件土地の存在位置、形状については別紙(二)、(三)記載のとおりであること、本仕土地の東側に隣接する日田市大字十二町字下庄手七七三番外七筆(別紙(二)、(三)のCの土地)を、昭和四二年二月一〇日、原告が電々公社に一坪金四万七、〇九一円、総額五、八二二万二、八七六円で売却したことは当事者間に争いがない。

(1)  成立に争いのない甲第四号証、同第九号証(以上いずれも後記措信しない記載部分除く)、乙第一号証、同第二号証、証人久保田稔雄、同小雲幸雄の各証言、原告代表者諫本清人の本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すれば、電々公社が日田市内に電話局設置のため土地を物色していたところ、本件土地がその売買交渉の対象土地となつたこと、原告と電々公社との売買交渉では、原告は一坪金五万円で売却する意思で一坪金六万円の価額を呈示したが、その後の交渉で一坪金四万七、〇九一円総額五、八二二万二、八七六円で売買契約が成立したこと、電々公社の支出行為については会計検査の対象となるため、右売買契約も同じく対象となること、鑑定士長嶋敏行の鑑定によつても右土地付近の近隣の価額は一坪金五万八、八四二円と評価していること、右売買契約の交渉に際し、原告側に売り急ぎ、電々公社側には買い急ぎ等の特殊な事情がなかつたこと、以上の事実が認められる。

右認定事実および、売買交渉の経緯からすれば、右土地の売買価額一坪金四万七、〇九一円は適正価額であると認めることができ、以上の認定に反する証人長嶋敏行の証言、原告代表者諫本清人本人尋問の結果を措信することはできない。

(2)  ところで、本件土地の位置関係および形状等は、別紙(二)、(三)の図面のとおりであるが、それによれば、本件土地と前記電々公社が取得したCの土地とは隣接していること、本件土地は道路に面する部分は約九間の長さで、その南西部分には、他人所有地のBの土地が存在しているため、入口の狭い不整形地であること、Cの土地は道路に一辺が面するほぼ正方形の形状した土地であり、その奥行は六七・五メートルであること、本件土地の奥行は九五メートルであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

右のとおり、本件土地はCの土地とは異なり、その形状は入口の狭い不整形地であり、しかも奥行の長いもので、その利用価値、ひいては交換価値についてもCの売買価額一坪金四万七、〇九一円をそのまま当てはめることはできないが、右Cの売買日時は昭和四二年二月一〇日であり、本件土地の売買日時は同年五月二三日であるということ、Cの土地と本件土地の立地条件は隣接地であるため、ほぼ同一であるので、右Cの土地の売買価額を基準地として本件土地の価額を決定することができる。

(3)  成立に争いのない甲第一号証、乙第六号証、同第七号証、証人久保田稔雄、同小雲幸男の各証言によれば、被告ならびに熊本国税不服審判所長は右Cの売買価額を基準として本件土地の価額を次のとおり算出したことが認められる。

(イ)  基準地Cの売買価額は金五、八二二万二、八七六円であり、その実測面積は一、二三六・三九坪、奥行六七・五メートルであるから奥行逓減率〇・七二であり、よつて、Cの道路面の一坪当りの価額は金六万五、四〇四円となる。

(ロ)  本件土地とB地との合計面積は一、三三九・二坪となつて、ほぼ基準地Cの形状と同一であるから、右一坪金六万五、四〇四円に一、三三九・二坪を乗じ、更に奥行逓減率(九五メートル)〇・六七を乗じた価額金五、八六八万四、六五四円が本件土地とB地との適正価額である。

(ハ)  B地の面積は一四〇・七坪であり、奥行逓減率(一四・〇メートル)一・〇、すなわち一坪金六万五、四〇四円を乗じた価額金九二〇万二、三四二円がB地の価額である。

(ニ)  よつて、本件土地の価額は、(ロ)の価額から(ハ)のB地の価額を控除した残額金四、九四八万二、三一二円である。これは一坪金四万一、二八六円となるが、本件土地の形状は不整形地であるためこれれを考慮して国税庁の通達の範囲内で一割五分を控除した価額金三万五、〇九四円が本件土地の適正な譲渡価額を算定したものである。

以上の事実が認められる。

(4)  本件土地の近隣の売買実例についてみるに、

(イ)  別表(二)のDの土地坪数二〇八坪を訴外豊田孝一が訴外株式会社新和に対し、昭和四二年三月二九日一坪金五万円合計金一、〇四〇万円で売却したこと。

(ロ)  別表(二)のEの土地坪数二六八・八三坪を、訴外梶原茂外一名が諫本清人外二名に対し、昭和四二年七月一九日、一坪金七万四、三二二円合計金一、九八八万円で売却したこと。

(ハ)  別表(二)のFの土地坪数二三六・一六坪を、訴外倉内孝雄が訴外合資会社丸伊呉服店に、昭和四二年八月三〇日一坪金五万七、〇六〇円合計金一、三四七万六、〇〇〇円で売却したこと。

(ニ)  別表(二)のGおよびBの土地合計七〇四・二坪を、昭和四四年二月二七日、前者を一坪金一〇万七、〇九二円で、後者を一坪金一〇万〇、五六〇円でそれぞれ売却し、これを成立に争いのない乙第七号証によつて認められる全国市街地価額指数により売買日時を本件の昭和四二年五月二三日当時に換算すると、前者は一坪当り金八万〇、一五八円となり、後者は金七万五、二六九円となること、

以上の事実は当事者間に争いがない。

(ホ)  原告代表者諫本清人本人尋問の結果によれば、本件土地は前記諫本清人外四名から日田市開発公社に、昭和四五年四月二七日、金六、七三七万七、〇〇〇円、一坪金五万五、〇〇〇円で売却されたことが認められるが、成立に争いのない乙第七号証の全国市街地価額指数によれば、昭和四二年三月から昭和四五年三月までの上昇率は約一六〇パーセントであると認められるので、昭和四二年五月二三日当時の価額を概算すると、一坪金三万五、六〇〇円と認められる。

(5)  成立に争いのない乙第九ないし第一二号証によれば、昭和四二年五月二三日当時の本件土地価額について日田市内の金融機関である西日本相互銀行日田支店が一坪金四万五、〇〇〇円と評価し、同じく金融機関の豊和相互銀行日田支店が一坪金四万九、七五〇円と評価し、日田市役所税務課長補佐の山下幟は一坪金三万五、〇〇〇円と評価し、同じく日田市内の井上要(不動産業者であることは証人久保田稔雄の証言によつて認められる)は一坪金三万五、〇〇〇円とそれぞれ評価していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(6)  以上認定してきた各事実を総合すれば、本件土地の適正価額は一坪金三万五、〇〇〇円と認めるのが相当であり、右認定に反する甲第四号証、同第九号証、証人長嶋敏行の証言、原告代表者諫本清人の本人尋問の結果は措信できない。

ところで、原告は、本件土地の価額は金二万六、〇〇〇円が適正であると主張して、甲第四号証、および甲第九号証を提出するが、右甲第四号証によれば、本件土地付近の標準地価額を一坪金五万八、八四二円と算出しておきながら、何らの合理的な説明がなされないまま、本件土地の価額算定に際しては、右標準地価額より五五パーセントの割合で減じておる。もつとも、甲第九号証によると、右五五パーセントを減じた理由として、本件土地に奥行があること、不整形地として利用価値が下ること、面積の規模が大きいこと、駐車配置に無駄な敷地を要することの四点をあげている。しかし、奥行があることによる価額の減少は、反証のない限り、乙第六号証によつて示された奥行逓減率の範囲内で減少するのが相当であると認められるし、不整形地として利用価額が下ることと、駐車配置の無駄な敷地を要することとは、いずれも不整形地としての利用価値の減少を包括的に把握すれば足りることであつて、以上の減少率ならびに減少価額は、甲第九号証のそれは合理的に乏しく、被告主張のそれが、より妥当かつ、合理的なものであると解される。また、甲第九号証は土地の面積が大きいことを価額減少のひとつの理由としているが、前記実際の取引例をみても、同号証によつて強調されているほど、大きくその価額が減ずることはないというべきである。

つぎに、甲第九号証の記載中に、取引事例比較法の直接法として日田市大字十二町字浄明寺四番三の土地を基準地として掲げているが、証人久保田稔雄、同小雲幸男の各証言、原告代表者諫本清人本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によれば。右土地の所有者にはかなりの負債が超過していたため、右土地を売り急いでいたこと、右土地の地上には高圧線が張られていたこと、右土地は以前自動車学校の練習場として使用していたため、道路よりも低い位置にあつたことが認められ、右土地の売買に際して、右認定のような特殊事情が存在していたので、本件土地の価額算定のための基準地としてその適格性を有しないものと解すべきである。右認定に反する原告代表者諫本清人本人尋問の結果、ならびに甲第九号証の記載を措信することができない。

五、 以上認定、説示してきたとおりであるので、本件土地の適正価額が一坪金三万五、〇〇〇円であることを前提として被告がなした本件課税処分には違法がない。よつて、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大喜多啓光 裁判官 田中正人 裁判長裁判官高石博良は転勤につき署名捺印できない。裁判官 大喜多啓光)

別表一

<省略>

<省略>

別表2 売買実例

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別表3

<省略>

正面道路

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